重陽の節句

 9月9日の重陽の節句の起源は、他の節句同様に中国にさかのぼることができます。中国では奇数は縁起のよい陽の日とされ、3月3日、7月7日など奇数が重なる日を幸多い日と考えました。中でも一番大きい陽の数である9が重なる9月9日を「重陽」と呼び、「菊の節句」として伝わりました。中国では、菊はすぐれた薬効をもつ植物として古くから知られ、4世紀に記された書物には菊が群生している谷を下ってきた水を飲んだ村人たちが長寿になったという「菊水伝説」が登場します。菊のエッセンスを含んだ水を飲むと健康で長寿になれる・・・そのような重陽節(重陽の節句)における菊の薬効と伝説は、海を渡って日本の平安貴族にもたらされ、季節の行事の中へと定着していったのです。

 古くから重陽の節句で親しまれている「菊酒」ですが、重陽の節句では、身体の中にある邪気を祓い、不老長寿を願って、菊酒を嗜みます。もとは菊を漬け込んで作っていた菊酒ですが、お家で手軽に楽しむなら、菊の花びらをお酒に浮かべて飲むと風情があって良いですね。秋の収穫祭とも結びつきのある重陽の節句には、秋の行事食「栗ご飯」を食べる風習があります。今年の重陽の節句は、家族みんなで秋の味覚を堪能してみてはいかがでしょうか。

 重陽の節句の伝統行事「被せ綿(きせわた)」は、前日に菊に綿を被せて菊の露や香りを含ませ、翌朝その綿で身体を清める風習のことで、昔は、被せ綿で身体を拭うことで、長生きできるとされていました。被せ綿を今風に楽しみたい方には、菊に薄い綿を被せて、ベールのようにアレンジしてお部屋に飾ってみてください。風情ある、素敵な重陽の節句をお楽しみいただけますよ。伝統的な一輪菊も美しいですね。不老長寿や繁栄を願う「重陽の節句」は、五節句の中で最も盛んな行事であったとされていました。今年の秋は、菊という伝統的な美意識に基づいた重陽の節句を楽しんでみてはいかがでしょうか。