「孔子祭(こうしさい)」というお祭りがあるのをご存知ですか?東京都の湯島聖堂と長崎県の孔子廟で「孔子祭」が開催されています。孔子(紀元前552年~紀元前479年)は、中国の思想家・哲学者で儒教の始祖です。儒教とは孔子の思想に基づく教えのことで「孔子教」と呼ぶこともあり、東アジア各国で2000年以上にわたって大きな影響を及ぼしています。儒教では「五常(ごじょう)」と「五倫(ごりん)」という教えがあります。それは「五条」である「仁・義・礼・智・信」を守ることで「五倫」である「父子・君臣・夫婦・長幼・朋友」との関係を維持できるという教えです。
儒教が日本に伝わったのは、5世紀頃と考えられています。継体天皇の時代、513年に中国百済から五経博士(官職のひとつ)が四書五経(ししょごきょう:論語・大学・中庸・孟子の四書と易経・書経・詩經・礼記・春秋の五経)を伝えるためにやってきたとき、儒教も一緒に伝えられたと言われています。孔子で有名なのは四書五経にもある「論語」です。論語は孔子が亡くなって約300年後に、孔子の儒教の教えを弟子たちが書き留めたもので、紀元前5世紀頃に記され、現在も広く語り継がれています。
東京都にある湯島聖堂の「孔子祭」は毎年4月第4日曜日に開催されるのですが、今年は新型コロナウィルスの影響で秋に延期しました。湯島聖堂は江戸時代の元禄3年に徳川5代将軍綱吉が儒教の振興を図るために創建されたと言われています。湯島聖堂の「孔子祭」は、孔子の教えを称え、広く世間に知らしめるため、孔子をはじめとする中国の先聖先師に牛や羊などのいけにえ(現在は酒や野菜)を供えるお祭りです。先聖先師の「先聖」は昔の聖人や賢者のこと、「先師」は聖人や賢者の教えを広めた人のことを指し、「先聖先師」とは尊敬の気持ちを込めた、孔子や孔子の弟子の呼び方です。
長崎県の孔子廟で行われる「孔子祭」は、孔子の生誕を祝うお祭りで毎年9月の最終土曜日に開催されています。長崎県の孔子廟は、明治26年に中国の清政府と在日華僑が協力して建てられた、日本で唯一の本格的中国様式の霊廟(れいびょう)です。霊廟とは、先祖や偉人などの霊を祀った場所のことで、孔子廟は孔子の霊が祀られています。孔子祭では、昔は本物の牛、豚、ヤギが供えられ(現在は作り物)、中国の孔子本廟の協力や指導で、祭礼を司る50人ほどの祭官が古式に則って儀式を行っていました。中国獅子舞の舞いなども奉納され、多くの観覧者で賑わっていました。
「孔子」のことは詳しく知らなくても、昔の中国の思想家として名前くらいは知っていると思います。「論語」は人の生きる道や考え方が記されていますので、自分の生き方の参考にしている人や、心を惹かれる言葉を座右の銘としている人もいます。「学べばすなわち固ならず」「止まりさえしなければ、どんなにゆっくりでも進めばよい」「好きなことを仕事にすれば、一生働かなくてすむ」など「よい人生」とはどんな人生なのか、そして「自分にとっての善」とはなにかを問い続けてきた孔子の名言の集大成が論語なのではないでしょうか。孔子が誕生したのは2500年前のことなのに、その言葉に惹かれる人が今も多くいることや、孔子の誕生を祝い、その功績を称えるお祭りがあるというのは、とてもすごいことだと思います。「何が正解かわからない時代」において論語を紐解いてみるのも有意義に過ごすことに繋がるのではないでしょうか。