大豆と地球環境の持続性


 10月下旬から11月にかけては大豆の収穫期です。葉っぱが落ちて、茎が茶色くなり、さやを振って中の大豆がカラカラ音をたてるくらい乾燥したら収穫時です。動画をみて、まるで枯れてしまったかのように見えてしまいますが、さやの中に大豆はまだ育っている最中です。大豆は、古くから日本で親しまれてきた食材のひとつです。優れた栄養価を持つことから、日本だけでなく、世界中で大豆に関する研究が進められており、今最も注目されている食材だと思います。最近、大豆ミートといって代替肉としてハンバーガーなどに使われ始めていることはご存知かと思いますが、実は気候温暖化対策の鍵になる農地利用変革、世界人口増加と所得上昇に伴う中国の肉食需要増加に対する肉食習慣の変革に大豆を飼料用ではなく、人間の食用として積極的に使っていこうとする動きがあります。日本でもモスバーガー、ドトール、ロッテリア、フレッシュネスバーガーなどで大豆ミートバーガーが食べられるので是非、食べてみてください。世界中の農地の大部分、75~80%が家畜用の飼料の生産に使われており、畜産を含める工業型食糧システム全体が、森林破壊の原因の80%を占めるとも言われています。地球温暖化の問題は、化石燃料エネルギーによる温室効果ガスが核心にあると思っていましたが、そんな単純な問題ではなさそうです。家畜の放牧地を確保するため、飼料を生産するために森林伐採による農地開発が世界的に進んでいます。世界の農業は肉食需要を満たすためのエコシステムとなっており、このまま世界人口の増加、所得上昇に伴う中国の肉食需要増加にに対応することが地球環境の持続性に大きな影響を与えています。興味のある方は、詳しくは「マッキンゼーが読み解く食と農の未来」「大豆と人間の歴史」やSDGsに関する書籍などを参照してみてください。

 大豆の一粒には、実に様々な栄養が詰まっています。タンパク質をはじめ、脂質、糖質、ビタミンB1、ビタミンE、葉酸、カリウム、マグネシウム、カルシウム、リン、鉄、亜鉛、銅など、栄養素の種類がとても豊富で、ビタミンやミネラルの含有量が多いのが特徴です。その一方で、大豆にはコレステロールが全く含まれていないことも分かっています。大豆の持つ栄養素の中で最も注目されるのはタンパク質です。国産大豆(乾燥)は、100g中に33.8gものタンパク質を含んでいます。タンパク質は、私達の臓器や筋肉、皮膚、髪、血液などを構成する上で欠かせない成分で、肉に匹敵するほど豊富なタンパク質を含む大豆は「畑の肉」という別名があります。タンパク質が不足すると、体内に既にあるタンパク質が分解されて使われるため、体力が落ちてしまいます。また、血管が弱くなったり、子供の場合は身体の成長に影響を与えたりする可能性もあるので、毎日、適度なタンパク質を摂取することは、健康を維持する上で大切なことなのです。ただし、タンパク質と一言で言っても、肉などに含まれる動物性タンパク質と大豆などに含まれる植物性タンパク質には違いがあります。大豆のタンパク質は肉のタンパク質に比べて低カロリーです。大豆と同じ量のタンパク質を肉から摂取すると、余分な脂質も同時に摂取しやすくなってしまいます。まずは良質なタンパク源であることです。一方で、タンパク質の栄養価を評価する「アミノ酸スコア」では、100に近いほど栄養学的に優れているとされますが、大豆のアミノ酸スコアは肉と同じ最高値の100で体内での合成が難しい必須アミノ酸をバランスよく含んでいます。あわせて、大豆のタンパク質は消化吸収率も大変良いことが分かっています。大豆の機能性成分として、細胞の構成に欠かせない「大豆レシチン」や、抗酸化作用をもつ「大豆サポニン」、善玉菌の餌となる「オリゴ糖」、女性にうれしい働きが期待される「大豆イソフラボン」など、大豆には健康を支える成分が豊富に含まれています。

 日本は、世界でも大豆をよく食べる国として知られています。日本の食生活に古くから馴染んでいる、もやしや枝豆のかたちで食べられる他、豆腐や納豆、味噌、醤油、油揚げなど様々な食品に加工され親しまれてきました。日本の大豆を使った食習慣は世界に向けてもっと発信していけば、世界中に大豆の食習慣が浸透していくのではないでしょうか。大豆の栄養と健康機能に優れたことは知られており、各企業で大豆加工食品の開発が積極的になされています。一方で、中国やインドなどでは劣悪な環境に家畜をたくさん押し込んでおり、それがパンデミックの温床となっていること、その家畜の排泄物や、ブラジルなど飼料用大豆の農地開発が密林地帯まで及んでおり、現在も森林破壊が続いていることが温室効果ガス増加につながっていることなどが分かっています。このまま人口増加と中国の肉食需要増加に世界の農業が対応していくと干ばつや海水面の上昇、生物の絶滅、作物生産性の減少など私達の生活面にも様々な影響が及ぶでしょう。私達にとって不可欠な農業にも大きな打撃を及ぼします。気温が上昇することで収穫量が増加する地域と減少する地域が出てくることが予想されます。また、気温上昇が大きいと、登熟期間の短縮や高温障害などが起こり、作物生産性が減少するとされています。低緯度地域などのもともと気温が高い地域では、気温が1~2℃上昇しただけでこのような影響を受けます。

 結局、所得上昇に伴う中国の肉食需要を満たすことはおろか、世界人口の増加に伴う人間の食糧自体の供給もままならなくなります。大豆の摂取が私達の栄養と健康に優れていると分かっていても、これまでの鶏・豚・牛などの肉食習慣を代えていくのは容易ではありません。しかし、世界の農地の大部分が家畜用飼料生産に使われている現実とこれが気候温暖化と関係があることは認識しなければなりません。地球温暖化による作物生産性は環境変化に対する作物の応答や至適温度によりますが、気温の上昇が大きいと、基本的に作物の収穫量は減少します。以前、このブログでも取り上げましたが、水資源が不安定になる地域が発生することも相まって、今後の農業への影響が懸念されます。地球環境の持続性は自らの食習慣の見直しを含めて多面的に一人ひとりが考え、正さなければならない問題だと思います。